お客様から寄せられたご質問
滞納者や長期不在者の部屋の鍵を勝手に変えて部屋から閉め出してもいいでしょうか?
南青山法律事務所からのご回答・ご提案
原則できません。ほとんどのケースで違法行為となりますので、絶対にしないようにしてください。
<解説>
私は全国各地でセミナーを行っておりますが、
各地の聴講者の方から寄せられる質問で特に多い質問が、次の質問です。
先生、うちのアパートの入居者が家賃を3ヶ月も滞納して困っているんですよ。
そこで、家賃滞納者の部屋の鍵を変えて、
部屋に入れないようにしたいと思っているんですけれど、大丈夫でしょうか。
つまり、「家賃を払わない以上、払うまで利用させたくない。」というご質問です。
また、こういう質問もあります。
物件を長期間不在にしている入居者がいるのですが、
もう帰ってこないと思いますので、部屋の鍵を変えてしまってもいいでしょうか。
そこで、今回はこの点について考えてみたいと思います。
1. 実力行使をしてはいけない
まず、結論から申し上げると、
いずれの場合も鍵の無断交換は原則やってはいけません。
ほとんどのケースで違法行為となるからです。
もちろん、管理会社様やオーナー様の気持ちはわかります。
「家賃を払わないのは無銭飲食と同じじゃないですか。」
「コンビニで代金を払わなければ、万引きでつかりますよ。」
「払わざる者住むべからず、ではどうしてダメなんですか。」
「ずっと帰ってきていないのだから、もう絶対帰ってきませんよ。」
皆さん、こうおっしゃいます。
しかし、「それでもなお、やってはいけないことがある」ということになります。
なぜなら、我が国は法治国家であり、
こういったトラブルは原則として【法律上の手続】に則って解決しなければならない
とされているからです。
そうすると、家賃滞納者や長期不在者を追い出そうとするなら、
1 裁判を起こして勝訴し、
2 それでもなお退去しない場合は強制執行をしなければいけない。
ということになるわけです。
にもかかわらず、この法律上の手続を無視し、
自らの実力行使でもって入居者を追い出そうとすること
(専門用語で「自力救済」といいます。)
を許してしまえば、みんな実力行使に走ることにもなりかねません。
実力行使が認められてしまえば、【力】がすべてになってしまいます。
それでは、なんのために裁判や強制執行という制度を設けたのか、
意味がなくなってしまいます。
裁判や強制執行という仕組みをつくり、相手方にも反論の機会を与え、
それぞれが言い分を述べた後に、公平な観点から裁判所が結論を出す。
こういうやり方がトラブルを解決するうえで最善の方法だと考え、
そのように法律で定めた以上は、それを守ってください。
守らなければ違法行為になりますよ。
というのが法律の考え方になります。
2. 実力行使は常に違法になるのか
では、この実力行使(自力救済)をした場合は常に違法になるのかというと、
そういうわけではありません。
例外的に許される場合があるにはあります。
ただ、それは
法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して
現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる
緊急やむを得ない特別の事情がある場合
に限定されると考えられています。
(ただし、これは、単に大家さんにとって
「緊急やむを得ない特別な事情がある」場合を指すのではなく、
法的手続を省略してもやむをえないと裁判所が判断するような
特別な事情がある場合、ということですので、
一般的な家賃滞納のケースではまず認められない、
かなりハードルが高い条件だとご理解ください。)
そうすると、そういった特別な理由がある場合であればさておき、
単なる「滞納家賃の回収」ですとか、単なる「長期不在」という理由だけですと
かなり厳しいと思います。
3. 違法行為をすることのデメリット
では、実力行使(自力救済)が違法行為になるとして、
それを実際に犯した場合に、具体的にはどういうデメリットがあるのでしょうか。
これは、民事と刑事に分けて考えるとわかりやすくなります。
まず、民事では「損害賠償の対象」になります。
民法709条の【不法行為に基づく損害賠償請求権】が入居者の方に発生します。
したがって、損害賠償を請求されたら、
最悪入居者の方にいくらかでもお金を支払わなければならなくなります。
(家賃を滞納されている場合であっても、です。)
賠償額はケースバイケースですが、悪質な場合は賠償額が高くなると思います。
さらに、民事=お金の問題だけで済めばいいですが、必ずしもそれだけとは限りません。
「住居侵入罪や窃盗罪といった犯罪」
=刑事事件になる可能性もあります。
民事事件ならまだしも、刑事事件になってしまうともう本当に大変ですから、
やはりこういった行為は避けられたほうがいいと思います。
4. 契約書上、鍵の交換が認められている場合はどうか
では、
賃料を支払わない場合、貸主は居室の鍵を無断で交換することができる。
と契約書で定めている場合はどうでしょうか。
この場合は特約ありとして適法になるでしょうか。
結論を言いますと、
たとえ契約書にそう書いてあっても原則違法行為
になります。
なぜなら、上記の通り、実力行使(自力救済)は
「緊急やむを得ない特別の事情」がある場合に限って
認められるからです。
特約をしていても関係ありません。
(むしろ、そのような「特別の事情」があるとはいえない場合に
適用されるときは、その特約は公序良俗に反して無効であると
解されます。)
5. 南青山法律事務所からのご回答・ご提案
したがって、結局、家賃滞納が発生した場合は、
部屋の鍵を勝手に変えたりするのではなく、
A 粘り強く話し合いを続ける
B 速やかに裁判・強制執行を行う
のどちらかしかない、ということになります。
ご存じの通り、
裁判や強制執行には時間がかかりますが、
適法にやるためにはそれしか方法はありません。
したがって、その場合はご自身にて最大限速く取り組まれるか、
もしくはスピーディに案件を解決できる法律事務所なりを探されたほうがよい、
ということになります。
(このあたりの考え方は、こちらのページもぜひご覧下さい。)
6. ご参考までに
ちなみに、世の中には【平気で鍵を変える管理会社】というのがあるそうで、
その管理会社は、
「万が一裁判になったら和解して金を払えばいい」
と言っているそうです。
それで済めばいいですが、
先ほどお話ししたように刑事事件になる可能性もあります。
それに、最近入居者に対する家賃の督促や明渡請求は
【社会問題化】しています。
一部の悪質な業者のせいではありますが、
結果としてこの問題はメディアも注意深く観察しています。
消費者問題に積極的な弁護士や司法書士もこの問題には高い意識を持っていて、
積極的に訴訟活動をしていこうという動きも見られます。
いずれこの問題は大きな問題になると思います。
このままずっと蓋をしておける問題ではありません。
そこで、結局、手間暇はかかっても、
法律を守りながら明渡を求めていくのが一番安全だと考えます。
繰り返しになりますが、ご回答としては、
A 粘り強く話し合いを続ける
B 速やかに裁判・強制執行を行う
のどちらかしかない、ということになります。
(ご参考までにこちらのページもご覧下さい。)
このQ&Aが少しでも皆さんのお役に立てば嬉しく思います。
(その他のQ&Aについてはこちらをご覧下さい。)
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【ご注意】
上記回答はあくまで一般的なケースについて述べるものですので、個別具体的なケースでの結論・成果をお約束するものではありません。
ご心配な点等ございましたら法律相談をお申込みくださいますようお願いいたします。
(法律相談の概要はこちらのページでご覧になれます。)
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当事務所では、当ホームページで提供する情報についてできる限り正確性、有用性を保つよう努めておりますが、その正確性、有用性、完全性(瑕疵担保責任を含みます)を保証するものではなく、また、具体的な成果が出ることを保証するものでもありません。
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