法律相談Q&A

お客様から寄せられたご質問

賃貸借契約書は公正証書でつくるべきでしょうか?

南青山法律事務所からのご回答・ご提案

ケースバイケースで、公正証書にしたほうが良い場合もあります。

<解説>

それほど頻繁ではありませんが、たまに次のような質問を受けます。

今度物件を新たな貸すことになったのですが、賃貸借契約書は公正証書にしたほうがいいでしょうか?
 
そこで、今回は【契約書を公正証書にすることのメリット】について考えてみたいと思います。


1. 家賃の支払いを強制できる

契約書を公正証書にすることの最大のメリットは、【家賃の支払いを強制できる】という点にあります。

これはどういうことかというと、

①賃貸借契約書を公正証書にし、かつ
②「家賃を支払えない場合には直ちに強制執行をされても異議ありません。」という趣旨の記載を公正証書にした場合

 
貸主は、借主が家賃を支払わない場合は、(裁判を省略して)直ちに強制執行を行うことができるようになる、ということなんです。

これが、契約書を公正証書にする最大のメリットです。

 
ただ、これだけだとちょっとわかりづらいと思いますので、契約書を公正証書にしない場合(いわゆる一般的なケース)と比較して説明したいと思います。


そもそも、賃貸借契約において、借主が家賃を支払わない場合、貸主としてはまずは

①電話・手紙などで督促をする

ということをするのが一般的だと思います。
 
ここで通常借主との間で話し合いの場が持たれ、なんにせよ話し合いで解決に至るということが多いのではないでしょうか。


ただ、この話し合いの時点で借主が素直に滞納家賃を支払ってくれればそれでいいのですが、
万が一借主が任意に家賃を支払ってくれない場合に、それでもなお滞納家賃を回収しようとすると、貸主としては法的な手段に頼るしかありません。
 
そこで、借主が任意に支払ってくれない場合、貸主は

②借主に対して家賃を支払うよう裁判を起こす

ということになります。
裁判に訴えて、それで借主から回収しようということですね。


ただ、裁判をしてもなお、家賃を支払わない借主もいるにはいます。
その場合、貸主は

③強制執行という手段を用いて借主から強制的に回収しようとする

ことになるわけです。


この強制執行手続では、たとえば「借主の給与の一部を強制的に差押えてそこからお金を回収する」といったことや、「借主の不動産や銀行口座を強制的に差し押さえてそこからお金を回収する」ということが可能ですので、強制執行というのはかなり強力な手段となります。

そこで、どうしても借主が任意に滞納家賃を支払ってくれない場合は、最終的にこの【強制執行】という手段でもって貸主は回収を図ることになる、というわけです。


ただ、この【強制執行】という手続は、上記の通り、通常は借主相手に裁判を起こし、裁判に勝訴して初めて認められる方法なんです。

というのも、先ほどご説明したとおり、この強制執行というのは、相手方の意思を無視して【強制的に】相手方の財産を差し押さえたりするわけですから、かなり強力な手段ですよね。
そうである以上、本来的には、裁判所での審理を経て初めて行使できる、というわけです。


にもかかわらず、

①賃貸借契約書を公正証書にし、かつ
②「家賃を支払えない場合には直ちに強制執行をされても異議ありません。」という趣旨の記載を公正証書にした場合

貸主は、借主が家賃を支払わなければ、(裁判を省略して)直ちに強制執行を行うことができるようになります。

この【裁判を省略できる】ということが、契約書を公正証書にする最大のメリットなんですね。


そこで、この点に魅力を感じられるというのであれば、契約書を公正証書でつくられたらよいと思います。


2. 間違いのない契約書ができる

次に、公正証書を作ることのメリットとしては、【間違いのない契約書ができる】という点が挙げられると思います。

というのも、公正証書というのは、公証人役場で、公証人という人の力を借りて作成する書面ですので、契約書が公正証書になっていれば、「間違いなく借主との間で契約を締結した。」ということが公的に証明できるというわけです。

さらに、公正証書を作成した際は、原本が公証人役場に保管されます。
したがって、たとえ貸主のほうで契約書をなくしてしまったとしても、原本はきちんと公証人役場に保管されているので安心です。

したがって、契約書を公正証書でつくる場合は、このような意味で【間違いのない契約書ができる】ということができます。


3. 実際の実務運用

このように、契約書を公正証書でつくることにはいくつかのメリットがあります。

ただ、実務的にはあまり「契約書を公正証書でつくる」ということは行われていない、というのが現状だと思います。

というのも、やはり、いちいち公正証書でつくるというのは(公証人役場とのやりとりもあって)とても大変ですし、公正証書を作成するには費用もかかるからではないかと思います。
 
また、仲介業者さんを介した契約書の作成であっても、住民票や源泉徴収票、印鑑証明といった本人確認書類を提出してもらうといった方法により、契約が間違いなく成立していることは十分立証可能です。
 
さらに、客付けが難しい現在の状況のなかで、入居申込者に対し、「契約書は公正証書にします。」、「万が一の際には、強制執行されても異議がないと記載してもらいます。いいですよね。」とはなかなか言いづらいですよね。
 
そんなことを言ったら逃げられてしまう可能性もありますし、家賃の回収は「連帯保証人」か「保証会社」にお願いしたらいいと考えられる方のほうが多いと思います。


4. 南青山法律事務所からのご回答・ご提案

したがって、契約書を公正証書にすることは確かにメリットがあるのですが、

ケースバイケースで、公正証書にしたほうがいい場合もあります。

ということになると思います。
 
 
このQ&Aが少しでも皆さんのお役に立てば嬉しく思います。
 
その他のQ&Aについてはこちらをご覧下さい。) 



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上記回答はあくまで一般的なケースについて述べるものですので、個別具体的なケースでの結論・成果をお約束するものではありません。
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