弁護士からのメッセージ

2011年の賃貸トラブルを振り返ります。

2011.12.31


2011年という年は、本当に凝縮された、濃い一年であったと思います。

皆さんご存じの通り、アラブの春から始まり、
東日本大震災・原発問題、欧州債務危機、
さらには北朝鮮問題と歴史的な出来事が次から次と発生しました。


賃貸法務の世界にとっても、
今年は大きな変化がもたらされた一年でした。


1. 更新料裁判

まず最初に取り上げられるのは【更新料裁判】です。


更新料裁判とは要するに、

● 更新料は無効
● したがって更新料を返せ

という裁判でした。


そもそも更新料の有効性は数年前まで
あまり大きく問題になっていなかったのですが、
(つまり実務上当然に有効と考えられていた)

平成21年7月23日に京都地裁が【無効判決】を下してからというもの、
徐々に流れが変わりはじめ、
昨年末の時点で貸主側は高裁レベルで【1勝3敗】と
大きく負け越していたのです。


そういうこともあって、今年の年明けの時点では

● 更新料裁判については今年最高裁が判断を示すだろう。
● その場合、貸主側が負ける可能性が高いのではないか。

と見る向きも少なくなかったのです。


とりわけ、

「借地借家法上、定期借家の場合や貸主に正当事由がある場合を除いて
借主が望めば賃貸借契約は必ず更新される(最悪でも法定更新)。
にもかかわらず、どうして更新料を支払う義務があるのか。」

という借主側の主張は一定程度の説得力がありましたので、
この問題をどう扱うか頭を悩ませていたというのが
正直なところです。


この点、もし万が一更新料が無効とされていたらどうなったか。

その場合、貸主は
平成13年4月1日以降に借主から受領した更新料を
全額返さなければならなくなるところでした。


しかし、皆様ご存じの通り、
更新料というのは多くの場合貸主の手元には残っていません。


にもかかわらず、借主から訴えられるのは貸主ですから、
そうすると貸主としては、手元には残っていない更新料を
いったんは借主に全額返金しなければならないことになります。


そうなると、今度は貸主が管理会社に対して
更新事務手数料を返せと主張しますから、
業界全体を巻き込んだ一大トラブルになる可能性があったのです。

これはものすごく恐ろしいことでした。


結果として

【高額に過ぎない限り更新料は有効】

という最高裁判決が7月15日に下り、
ほっと胸をなで下ろしたというのが正直なところです。


2. 敷引・保証金の償却

この更新料のほかにも、
重要な最高裁判例が今年は下されています。

それは、【敷引き有効判決】です。

「敷金として預かったお金のうちの一部を借主には返さない」
という取り扱いのことを一般的に敷引きというのですが、
この敷引きはこれまで【無効】とされるケースが多く、
賃貸管理上どう取り扱うかが問題となってきました。


しかし、この敷引きについても今回の最高裁判決で

【高額に過ぎない限り有効】

ということになりましたので、
今後は「敷引き」であろうが「保証金の償却」であろうが
高すぎない限り有効ということになると考えます。

また、この最高裁のロジックを使えば、
早晩、借主側弁護団のターゲットになると言われていた
【礼金】についても、高額に過ぎない限り有効になると考えられます。


3. 原状回復費用負担特約

さらに、原状回復費用を借主負担とする特約も、
一定の場合に有効になることが最高裁によって示されました。

これにより、これまで貸主負担とされてきた
【通常損耗・自然損耗】についても、
一定の場合に借主の負担とすることができるようになりました。


以上を見ると、最高裁の立場としては、
更新料であろうが敷引きであろうが
原状回復費用であろうが、
(多少の正確さを犠牲にしてわかりやすく言えば)

「やり過ぎない限り基本的に有効にします。」

ということです。

これはおそらく、最高裁のほうで
「なるべく市場に任せる。」
「法律は過度に干渉しない。」
という考えを持っているということなんだろうと思います。


というのも、皆さんご存じの通り、
いくら更新料等が法律上有効だからといって、
物件によってはもはや取れないのが現状ですよね。

「空室になったら困るから、更新料はいらない」
というオーナーさんもいます。

一昔前までは敷2・礼2だった物件も
いまは敷1・礼1とか、敷1・礼ゼロとか、
ひどい場合はゼロゼロ物件になっていたりします。


つまり、更新料や敷引きの有無というのは
需給に合わせてマーケットが基本的に決めればいいのであって、
あまりにもひどすぎるケースでなければ法律は介入しない。

だからこそ、「高額に過ぎない限り有効」という考え方を
示したのだと思います。


4. 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインの再改訂

こういった最高裁判例のほかに、今年は

【原状回復をめぐるトラブルとガイドライン】
(いわゆる国交省ガイドライン)

も再改訂されました。

(国交省の報道発表資料)
http://bit.ly/scDUA3
(ガイドラインのダウンロード)
http://bit.ly/uI2ajn


原状回復条件や原状回復精算の書式が追加されていたり、
その他いくつか細かい点が修正されていますが、
やはり最大の修正点は、クロスやカーペットの残存価値割合が

6年でわずか1円

となってしまった点が挙げられると思います。
(これまでは10%)


そうすると、たとえば、
仮に借主が故意過失によってクロスを汚したとしても、
その物件に借主が6年以上居住している場合は、
【わずか1円しか】補修費用を借主に請求できなくなる、
ということです。

もちろん、ケースバイケースで
工事費や人件費等を請求できる場合もあるとのことですが、
いずれにせよこれはかなり貸主にとっては厳しい改訂内容
だと思います。

そこで、今後はクリーニング費用その他の原状回復費用を
いかに借主と分担するかが重要になってくると思います。


5. 暴力団排除条例の施行(東京都・沖縄県)

このほか、本年は10月に東京都と沖縄県で
【暴力団排除条例】が施行されたことにより、
全都道府県で暴力団排除条例が施行されました。

東京都条例の詳しい内容はこちらに譲りますが、
(警視庁のHP)
http://bit.ly/sHk4Ig

暴力団排除の流れが全国的に広がりつつあることを
受けて、国交省から売買契約書や賃貸借契約書の
条項案が出されています。

この点もぜひご確認頂きたいと思います。

(国交省の報道発表資料)
http://bit.ly/sS1Pke


6. 賃貸住宅標準契約書、改訂へ

さらに、こういった「暴力団排除」の流れや、
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の
再改訂の流れを受けて、
国交省は【賃貸住宅標準契約書】も改訂する方向です。

現在はまだ意見募集の段階ですが、
原案をHP上で見ることができますので、ぜひご確認ください。

(国交省の報道発表資料)
http://bit.ly/tfJ1MO
(原案のダウンロード)
http://bit.ly/vCPPKR


7. 改正宅建業法施行規則の施行

このほか、
投資用マンションについての悪質な勧誘行為の禁止措置を定めた
改正宅建業法施行規則が10月1日に施行されています。

これにより、勧誘に先立って宅建業者の名称や氏名、そして
勧誘をする目的である旨を告げずに勧誘を行うことや
相手方が契約を締結しない旨の意思を表示したにもかかわらず、
勧誘を継続すること等が禁止されることとなりました。


8. 賃貸管理業者登録制度スタート

また、賃貸管理業者登録制度が
国土交通省告示により創設され、
12月1日から賃貸住宅管理業者の登録が
スタートしています。
 
 
 
 
このように、ざっと振り返ってみても、
今年は重要な裁判例や改訂・改正が目白押しで、
本当にいろいろありました。

現場での日常業務を抱えながら、これらをフォローしていくのは
とても大変なことではありますが、
今後の賃貸管理業はこれまでにも増して
賃貸法務の研究が必要になってくると思います。


当事務所としては、今後もこれらを一つずつ丁寧にフォローし、
顧問先のお客様を始めとして多くの方をサポートしていきたいと
思います。


明年も南青山法律事務所をどうぞよろしくお願いします。


 

南青山法律事務所
私たちは、賃貸不動産の管理をお手伝いする法律事務所です。

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