お客様から寄せられたご質問
契約終了時に気をつけるべき3つのポイントとは
南青山法律事務所からのご回答・ご提案
「①契約の終了」「②建物の明渡」「③残置物所有権放棄」の3つを必ず確認するようにしてください。
<解説>
1. 賃貸借契約が終了した証拠を残す
物件を次の借主に安心して貸すためには、
現在の借主との賃貸借契約を確実に終了させる
ことが必要です。
ただ、ここで注意するべきなのは、
いったん締結された賃貸借契約は,ほとんどの場合、自動的には終了しない
という点です。
「なんとなく出て行った」「最近利用していない」
というだけでは契約は終了しないことが通常であり、
解約・合意解約・解除・期間満了といったなんらかの終了原因が必要です。
そこで、契約が終了する場合は、
必ず「契約終了の証拠」を残すようにしてください。
たとえば、借主から解約の申し入れがなされた場合は、
必ず「解約届」を書面で提出させるようにしてください。
貸主から契約を解除するのであれば「解除通知書」を送る、
当事者間の合意によって契約を終了させるのであれば
「合意解約書」を取り交わす、
という形になります。
期間1年以上の定期建物賃貸借契約であれば、
終了通知を出しておくことが必要です。
(ただし、期間1年未満の定期建物賃貸借契約は終了通知不要です。)。
なぜなら、こういった「契約終了」の証拠を残しておかないと、
いざというときに入居者から「契約が終わっていない」と主張され、
「言った・言わない」でトラブルになる可能性があるからです。
2. 建物の明け渡しが完了しないと次の人には貸せない
きちんと契約を終了させた上で、
次に「建物の明渡」を完了させることが必要です。
なぜなら、
契約の終了と建物の明渡は別のこと
だからです。
この点、契約の終了と建物の明渡を区別せず、
同じものとして誤解されている方も少なくありません。
しかし、
契約が終了しているにもかかわらず、なかなか物件から退去しない
というケースもあれば、
そもそも賃貸借契約がないのに、所有者に無断で物件を不法占拠している
というケースもあるように、
「契約がなくても物件を占有している」という状態はありえます。
このように、「契約の有無」と「物件の占有」は必ずしもイコールではないので、
契約をきちんと終わらせるだけでなく、
借主による物件の占有もきちんと終わらせる(明渡を受ける)必要があるのです。
では、具体的にどうするかというと、
建物の明渡は「退去立会い」と「鍵の返還」を行うようにしてください。
特に鍵の返還が重要です。
というのも、当該物件を今後一切使用しない、というのであれば、
当然鍵を返すはずですし、逆に鍵を返さないというのであれば、
引き続きその物件を使い続ける意思の現れともいえます。
そのため、鍵の返還が建物の明渡の重要な基準となり、
裁判所も鍵の受け渡しの有無で明渡しが完了したかを判断しています。
そこで、諸事情により退去立会いを行えない場合であっても、
鍵の返還だけは必ず受けるようにしてください。
紛失等により鍵の返却ができない場合は、
「鍵を紛失したため返却ができない。」
という旨の連絡を書面にてもらうとよいと考えます。
このように、きちんと明渡を受けておかないと、
「まだ明け渡していない住居に無断で不法侵入された」
などと言われ、トラブルになる可能性があります。
3. 残置物所有権放棄の確認が必要
契約が終了し、建物の明渡を受ける場合、
物件内に物が残っている(残置されている)ケースは通常あまりないと思います。
ただ、万が一残置物が見つかった場合、
貸主にて勝手に処分できるかというと、
他人の所有物を勝手には処分できない
のが原則です。
そのため、借主に連絡を取り、処分することを承諾してもらうことが必要になります。
もちろん、そのような手続を踏むことは面倒ですし、
明らかに捨てていった(所有権を放棄した)とみなせる場合もありますが、
借主のほうでうっかり引越し先に持っていくのを忘れていた物があった場合に、
後日トラブルになる可能性もあります。
そこで、後日物件内に残置物が見つかった場合に備えて、
退去時に、残置物の所有権を放棄する旨明記した書面をもらうようにしてください。
そうすることで、借主に連絡して承諾をもらうまでもなく、
貸主側で速やかに残置物を処分することが可能となります
具体的には、
解約届や合意解約書といった契約終了に関する書面に、残置物所有権放棄の条項を目立つように記載しておく
と良いと思います。
さらに賃貸借契約書にも
本契約が終了し,借主が貸主に本物件を明け渡した時は,借主は本物件内に残置した動産の所有権を放棄する
といった明渡後の残置物所有権放棄を明記しておくことをお勧めいたします。
ただし、貸主による残置物の処分は、
あくまで借主が建物の明渡を完了した後に可能となります。
建物の明渡が完了していないのであれば、
無断で物件内に入ることはできませんので、
当然残置物を処分することもできません。
仮に,賃貸借契約書の中で,
「契約終了後は,貸主は本物件内の動産を自由に処分できる」
という特約があっても、借主が建物の明渡を完了していないかぎり、
この条項に基づいて残置物を処分することは違法と判断される可能性が極めて高いです。
くれぐれもご注意ください。
4. 借主が夜逃げした場合や行方不明の場合はどうするべきか
借主が夜逃げした場合や行方不明の場合、
借主と連絡を取ることができませんので、
①契約の終了、②建物の明渡、③残置物所有権放棄のいずれにも支障をきたします。
このような場合に、
○賃借権を放棄した
○占有を放棄した
○残置物の所有権を放棄した
とみなして、現借主に無断で勝手に中の荷物を処分し、
新しい借主に物件を貸し出す貸主も少なくありません。
しかし、放棄とみなせる場合も理論上はないわけではありませんが、
そのハードルはかなり高く、実際に放棄とみなせるケースはかなり限定されると考えます。
したがって、100%適法な対応をするためには、裁判・強制執行という法的手続を経る必要があります。
詳しくはこちらのページをご参照ください。
5. 南青山法律事務所からのご回答・ご提案
以上から、契約を確実に終了させて、次の人に貸すために、以下の3つの項目を行うようにしてください。
1 賃貸借契約が終了した証拠を書面で残す。
2 退去立会いと鍵の返還により、建物の明渡を完了させる。
3 残置物の所有権を放棄させることを忘れない。
解約届や合意解約書、賃貸借契約書の雛形に事前に記載しておく
このQ&Aが少しでも皆さんのお役に立てば嬉しく思います。
(その他のQ&Aについてはこちらをご覧下さい。)
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上記回答はあくまで一般的なケースについて述べるものですので、個別具体的なケースでの結論・成果をお約束するものではありません。
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